測りすぎ

ジェリー・Z・ミュラー,松本裕訳『測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか』(みすず書房,2019)

Quotes

本書は,説明責任基準という美徳は貴重なツールにはなり得るものの誇大宣伝されていて,代償が過小評価されていると主張する.また本書は,測定基準への執着をどうすれば避けられるか,そしてその痛みをどうすれば軽減できるかについて,原因,症状,予後を診断する. (7)

測定基準の支持者が「説明責任」を擁護するとき,彼らはこの言葉に含まれる二つの意味を暗黙のうちに組み合わせている.説明責任を果たすというのは,責任を取るという意味だ.だがもう一つ,「カウントできる」,つまり測定できるという意味もある.「説明責任」の擁護者は,測定することによってのみ組織が真に責任を果たせるようになると考えるのが一般的だ.したがって実績は,標準化された測定に落とし込めるものと同一視される. (18)

「スプレッドシートはツールだが,世界観でもある−−数字による現実だ……なぜなら,スプレッドシートは非常に多くの重要なことをすることができるため,それを使う者はコンピューター上で創れる想像上のビジネスがあくまで想像上のものに過ぎないという重要な事実を見失ってしまいがちだ.コンピューターの中で実際にビジネスを複製することはできない.複製できるのはそのビジネスのさまざまな側面だけだ.そしてスプレッドシートの強みは数字であるため,数字で容易に具体化できる側面だけが強調される.無形の要素は,そう簡単には定量化できない.」 (47 スティーブン・レヴィ(1984)からの引用)

経営についての専門書は,プリンシパル=エージェント理論から独自の結論を導き出した.経営は明確な目標を設定するということであり,それから監視と動機づけをおこなうことだというものだ.経営は一方では情報と報告のシステム,そしてもう一方では巧妙に構築された報酬に依存しているのだ. (51)

当初から,このアプローチの前提にある欠陥に注目しようとした批判者はいた.経済学者ペント・ホルムストロームやポール・ミルグロム,それにモントリールのマギル大学で経営学を教えているヘンリー・ミンツバーグもそのひとりだ. (52)

もっと多くの医療測定をという要求がどれほどコストと負担の大きなものかは,米医学研究所が最近公表した報告書に見てとれる.大手医療センターでは,品質の測定結果を政府の規制当局や保険会社に報告するコストは,純収入の1%に相当するそうだ.測定や関連活動にかかる管理費は年間1900億ドルと推定される.それに加えて,政府の「患者品質報告しすてむ Patient Quality Reporting System」にデータを入力する際にかかる測定不能なコストもある.大規模な医療機関なら,データ入力を外部機関に有料で依頼しなければならない.小規模な医療機関の場合は,医師が自ら入力しなければならない場合もある.この膨大なデータを集め,入力し,処理するという目に見えないコストに加え,データ入力に時間を費やしたために医師らができなかった仕事という計算できない機会費用もある.さらに,費やされる時間はほとんど計上されず,したがって無報酬だ.このコストはたいてい考慮外に置かれる. (118−119)

「資金運用者資本主義」(ハイマン・ミンスキー),「エージェント資本主義」(アルフレッド・ラパポート) (148)

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